戦後80年という節目の年を迎えた今夏、改めて平和の尊さを考えています。第二次世界大戦の終結以降、日本は戦火を免れてきました。約90%の国民は戦争を経験していません。しかし、世界ではいまだに多くの人々が戦争や紛争の苦しみにさらされています。開始から3年経ったいまもなお、ロシアの軍事侵攻により、ウクライナでは日々の暮らしが破壊され多くの命が失われています。パレスチナでも、長年にわたる対立と暴力により、子どもたちは平和を知らずに育っています。
戦争は人々の尊厳を奪い、未来への希望を閉ざします。私たち一人ひとりが「遠くの国の話」として無関心でいるのではなく、戦争によって失われる命や生活に目を向け、共に平和を願い、行動しなければ平和は維持できません。人間は言葉を持っています。対話や相互理解を重んじる文化を育み、暴力ではなく協力によって課題を解決する社会を築きたいと声を上げていかなければなりません。世界のあちこちに戦争の悲劇を繰り返さないための博物館やモニュメントが造られています。それらの施設を残した人たちの想いを今一度共有しなければならないのではないでしょうか。
この夏は、参議院議員選挙や仙台市長選挙がありました。私たちが世界に向けて直接発信することはできませんが、私たちの意志を具現化してくれる政治家を選ぶこと、真の意味での間接民主制を執行すべきだと思いました。
一方で、私たちの身の回りでも、日々、些細な諍いや対立は起こっています。意見の食い違いや立場の違いから、相手を責めたり、自分の主張だけを通そうとしたり。誰でも自分を基準に考えますから、見たいものだけを見たり、聞きたいことしか聞かないこともあります。しかし、そのようなかみ合わないやり取りでは、真の理解や解決には至りません。自分の意見を表明することは大切ですが、同様に相手や周囲の意見を素直に聞く姿勢も大切です。目標や課題に向けて、共に話し合いながら選択をすり合わせていく。それによって、たくさんの人たちの意見が反映された、安心して暮らせる社会を作ることができるのではないでしょうか。
全通研は聴覚障害者福祉と手話通訳者の社会的地位の向上を目指しています。その実現のためさまざまな角度からアプローチしています。取り組み方針の確認にしても、行事の計画にしても、私たちの活動は常に話し合いを伴います。出される意見はさまざまです。決して自分と同じものばかりではありません。それでも意見を出し合いながらお互いに納得したものを作り上げる、いわば話し合いの修練を重ねているともいえます。誰もが尊ばれ、存在を認められる、そのような社会を作ろうという意識で周囲の人々とつながることが、微力な私たちができる「平和づくり」ではないかな、などと考えています。
会長 宮澤典子