ろう者と聴者がともに担う通訳 ― 信頼に支えられる協働

 ミラノ・コルティナ冬季オリンピック2026で日本選手団が健闘しています。NHKは今回も開会式や閉会式の様子を手話通訳付きで放送しています。デフリンピックを含め、ろう者による手話通訳を目にする機会が増えましたね。全日本ろうあ連盟は、ろう者による手話通訳に関する検討を続けています。今年度は、モデル講座を実施しています。他にも養成と派遣に着手する自治体も出てきました。

 

CO通訳(ろう者と聴者が協働で行う通訳)は単なる役割分担ではありません。聴通訳者が音声言語から手話へと変換し、ろう通訳がそれをさらに自然で理解しやすい手話へと再構築する。その逆もあります。そこには、言語的調整だけでなく、文化的・認知的な橋渡しが含まれています。ろう者ならではの言語力と言語外知識、聴者ならではの言語力と言語外知識の相互作用により、情報の質はより豊かで精緻なものになります。

 

しかし、CO通訳の効果は、ろう者と聴者が一緒にいるだけでは生まれません。そこに不可欠なのは、通訳者同士の信頼関係です。そしてこの課題は、ろう・聴という違いに限ったことではありません。聴通訳者同士であっても、信頼がなければ質の高い通訳は成立しません。

では、信頼関係とは何でしょうか。それは単に仲が良いということではなく、「安心して任せられる」「互いの専門性を尊重できる」「率直に意見を交わせる」対等な関係です。通訳は瞬時の判断の連続です。迷いや修正が必要になる場面もあります。そのとき、お互いの判断を支え合い、必要であれば補い、終了後には率直に振り返ることができる関係性が、通訳の質を高めます。

信頼を築くためには、いくつかの姿勢が求められます。第一に、互いの専門性を認めることです。ろうの通訳者と聴の通訳者はそれぞれが異なる強みを持っています。優劣ではなく、違いとして理解することが出発点です。第二に、通訳前後の丁寧なコミュニケーションです。打ち合わせを十分に行い、役割や情報を共有する。終了後には振り返りを行い、良かった点も課題も言葉にする。こうした積み重ねが、安心感と信頼を育てます。第三に、自らの課題に向き合う誠実さです。通訳は個人プレーではなく、チームの営みです。「自分がうまくやる」こと以上に、「チームとしてより良い通訳をつくる」という視点を持つことが、協働の質を高めます。

 

協働とは技術の問題であると同時に、関係性の問題でもあります。互いを尊重し、学び合い、支え合う。その積み重ねが、よりよい通訳のかたちをつくっていくのではないでしょうか。そして、それは手話通訳に限ったことではなく、日頃の人間関係や全通研活動にも言えることですね。

 

会長  宮澤典子