予習~手話通訳設置事業~

8月23日に企画されている第1回宮通研学習会のテーマは「設置手話通訳」です。そこでちょっと学習会のための予習をしてみましょう。

 

今では、病院や役所、研修・講習、裁判所などで手話通訳を利用できることが当たり前になりつつあります。しかし、この制度は最初から存在していたわけではありません。ろう者が安心して暮らせる地域をつくりたいという願いと、それを制度に変えようとした先輩たちの運動が、現在の手話通訳制度の礎となっています。その出発点の一つが1973年に始まった「手話通訳設置事業」です。

1960年代から70年代にかけて、福祉制度が整備され、ろう者が行政と関わる機会は増えていきました。しかし、手話で相談できる窓口はほとんどなく、制度があっても利用できない人が少なくありませんでした。そこで求められたのが、市町村などに手話通訳者を配置し、いつでも相談できる体制をつくることでした。

この運動を力強く進めたのが、全日本ろうあ連盟と全通研です。ろう者の暮らしを支えるためには、手話通訳者を養成するだけでは十分ではありません。行政に制度として位置付けてもらうことが必要でした。全日本ろうあ連盟と全通研は、全国の仲間とともに人材育成を進める一方、制度化に向けた調査や提言、自治体への働きかけを続けてきました。

 

設置通訳者は、単に「通訳をする人」ではありません。ろう者の相談を受け、必要な制度につなぎ、行政との橋渡しを行う存在です。地域のろう者にとって、「役所に行けば相談できる人がいる」という安心感は、とても大きな意味を持ちました。

この設置制度を基盤として、その後、手話通訳者派遣事業が加わり、現在の意思疎通支援事業へと発展していきます。私たちが当たり前のように利用している制度は、先輩たちの運動の積み重ねの上に成り立っているのです。

 

2025年には手話施策推進法が制定されました。手話を必要とする人が安心して暮らせる社会づくりは、新たな段階を迎えています。しかし、全通研が2025年に実施した実態調査でもわかるように、設置通訳者の配置状況や役割、処遇には地域差があり、担い手不足も深刻です。制度は完成したのではなく、今も発展の途中なのです。

全通研は、手話通訳者を守り連帯する団体であると同時に、制度を育ててきた団体でもあります。その歴史を知ることは、これからの制度を考える第一歩です。私たち宮通研も、その歩みを受け継ぎ、ろう者が安心して暮らせる地域を目指して、制度をより良いものへ育てていきたいと思います。制度は、誰かがつくってくれるものではありません。ろう者の願いを受け止め、仲間と語り合い、一歩ずつ形にしてきたものです。これからの制度も、私たち一人ひとりの願いを結集させ育てていくものです。

 

宮澤典子